企業型確定拠出年金(以下、「企業型DC」といいます)も制度発足から約20年が経ち、30,000社以上(2020年3月末時点)に普及しています。
転職者の受け入れ時に“御社は企業型DCをやっていますか?”と聞かれるケースも増えてきているのではないでしょうか?
今回は企業の担当者が、企業型DCを導入検討した際に悩むポイントである、
「マッチング拠出を可能とした設計にする」か「選択制DCの設計にする」か
について説明していきます。
共に従業員自らの給与から掛金を拠出する制度ですが、相違点が多くありますので、以下にて違いを見ていきましょう。
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そもそもマッチング拠出と選択制DCって何?
マッチング拠出と選択制DCは自ら企業型DCに拠出する点は同じですが、まったく異なるものです。以下にてそれぞれの違いを見ていきましょう。
マッチング拠出とは
マッチング拠出とは、企業型DCで会社が従業員のために拠出(積立のこと)してくれるお金に加え、従業員自身も給与からお金を拠出できる仕組みのことです。
イメージは下図の通りです。

大きな特徴として以下の2点です。
特徴
- 従業員が拠出したお金は所得控除の対象※1
- 会社が拠出している掛金額までしか従業員は拠出できない※2
※1所得控除のため社会保険料の計算基礎である標準報酬月額にマッチング拠出分が含まれます
※2ただし、会社の拠出金額と自身のマッチング拠出の金額の合計が法令上(規約に定めがある場合は規約上の上限額)の上限以下になる必要があります。なお、ほとんどの会社が法令で上限となっている5.5万円or2.75万円かと思います。
また、法令上、会社が拠出してくれるお金のことを“事業主掛金”といい、従業員自身が拠出(マッチング拠出)するお金のことを“加入者掛金”といいます。
後程説明する選択制DCを理解する上でこの“事業主掛金”と“加入者掛金”の考え方が重要になりますので、しっかり押さえておきましょう。
選択制DCとは
選択制DCとは、会社が従業員のために拠出するお金に、従業員が給与とは別の手当(生涯設計手当やライフプラン手当と呼ばれることが多いです。)から給与に上乗せして受取るか、事業主掛金に上乗せして、拠出するか“選択する”仕組みのことです。
つまり、選択制DCでは給与として受取る前に企業型DCに上乗せしているため、“加入者掛金”ではなく “事業主掛金”として拠出されます。
イメージは下図の通りです。

大きな特徴として以下2点です。
特徴
- 給与として受け取っていないため、上乗せ分は年収に含まれない※1
- 従業員の上乗せ分は事業主掛金のため、マッチング拠出のような、上限がない※2
※1年収に含まれないので、所得税、住民税に加え、社会保険料も軽減されることがあるため従業員だけでなく、会社にもメリットがでます。ただし、社会保険料が減る場合、従業員の将来受取る年金額も減りますので、導入に際し、従業員への十分な説明が求められます。
※2法令上の限度額はあります。
マッチング拠出や選択制DCでどのくらい得するか
あくまで目安ですが、企業の担当者は従業員の説明の場で、どのくらい加入のメリットがあるか従業員に説明することも多いですので、以下のモデルケースを示します。
■年収500万円で所得税10%、住民税10%の方が2万円を両制度で積立てたケース
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マッチング拠出 |
選択制DC |
所得税(年間) |
約2.4万円 |
約2.4万円 |
住民税(年間) |
約2.4万円 |
約2.4万円 |
社会保険料の等級が |
等級に影響なし |
約5.4万円 |
合計(年間) |
約4.8万円 |
約10.2万円 |
※標準報酬月額が44万円⇒41万円に下がり、等級差が3万円と仮定し、従業員の社会保険料の負担率は簡単のため15%で計算
マッチング拠出と選択制DCの違い(まとめ)
どちらも自分でお金を積立てる仕組は同じですが、以下のような違いがあります。
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マッチング拠出 |
選択制DC |
税メリット |
拠出したお金全てが所得控除 |
削った給与分の年収が下がり、所得税が減少 |
社会保険料メリット |
無し(標準報酬月額の等級に影響なし) |
標準報酬月額の等級が下がると社会保険料も下がる |
社会保険料デメリット |
無し(標準報酬月額の等級に影響なし) |
将来受け取る厚生年金が下がる可能性有 |
掛金に関して |
加入者掛金は事業主掛金以下、かつ、加入者掛金+事業主掛金は法令上の限度額以下。 つまり、会社の掛金が少額の場合、給与から企業型DCに拠出したくとも拠出できない |
全て事業主掛金であり、法令上の限度額まで拠出可能。 つまり、会社の掛金が少額であれ、法令上の限度額まで、自身の手当から支払うことができる |
両制度を比較してみると、以下のような基準でどちらを選択するか考えてはいかがでしょうか?
選択制DCが向いているケース |
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マッチング拠出有りが向いているケース |
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私が過去見てきた会社の中で、以下のようなケースでせっかく企業型DCを入れたにも関わらず、従業員から不満が多発していることもありますので、制度設計は慎重に従業員と話し合って決めるのが良いでしょう。
例)マッチング拠出有りの設計としているが、会社掛金が一律5,000円となっており、マッチング拠出も5,000までしかできず、法令上の55,000円まで40,000円も使い残しているケース
最後に個人的には従業員に説明ができるのであれば、選択制DCの方が使い勝手が良いと思います。説明が難しいようであれば、金融機関の担当者か専門コンサルの方に説明を代理してもらっても良いでしょう。